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第6章 灼熱 (蝉丸)

「何度見てもたまらないね、美人の泣き顔は。敏腕キャプテンで知られるアマンダ・オースチンも所詮は女。

いいんだよ泣いたって、ちっとも恥ずかしいことじゃない。この有刺鉄線責めは屈強な大の男だって泣きじゃくって許しを乞うほどさ。

でもその涙が枯れ尽くす前に白状しないと、とんでもないことになっちまうよ。ふふふふふふ・・・・」

エスメラルダは全身を有刺鉄線できつく縛り上げられ小刻みに震えながら必死に痛みに耐えるアマンダを見つめながら言った。

                

無数の鉄の棘に苛まれた傷口から流れ出る血で、アマンダの体は遠めに見るとあたかも真っ赤な衣装を身に纏っているかのようだった。

「・・・・どんなに責めたって・・・ウゥッ・・・・無駄だ。私は・・・・絶対に・・・アウッ・・・・・」

「絶対になんだい?喋らないとでも言いたいのかい?どうやら本心らしいね。あまりの痛みで言葉もろくに話せないじゃないか。

でもこんな涙で許されると思ったら大間違いだよ!おまえはもっともっとあたしを楽しませるんだ。そう簡単に口を割られちゃ面白くないからね。」

アマンダの苦痛の表情がエスメラルダの根っからの残忍性にいよいよ火をつけたようだ。

(こ、この女、拷問自体を楽しんでいる。くそっ、海賊の意地に賭けてもこんな女に屈指するもんか!!ニューランドンの宝は守り通してみせる!)

逆にエスメラルダの卑劣で残虐な思惑は、非道を憎むアマンダの闘志をいっそう燃え上がらせた。

攻守の立場こそ明確だったが、二人の女海賊の間に熱い火花が飛び散り、今ここにあらためて戦いのゴングが鳴ったのである。

そうこうしている間に、エスメラルダの手下どもは着々と次の準備を進めていた。

アマンダの体に絡みつく有刺鉄線の何箇所かに新たな鉄線を結わいつける。

その鉄線はちょうどアマンダを拘束する椅子を囲むように床に置かれた数個のバケツの中に伸びていた。

手下の男は無言で頷き、準備完了をエスメラルダに告げる。

「いいわ。派手に持っておいで!あはははははは・・・・」

エスメラルダの命令でスコップを手にした男たちが一斉に動き出した。

(いったいこれから何が始まるというんだ!?)アマンダの顔に焦燥の色が浮かぶ。

ザザザザザーーッ!!

ザザザザザーーー!!!

バケツの中に勢いよくスコップで注がれたのは真っ赤に燃える木炭であった。

木炭は赤や黄色の火の粉を撒き散らせながら、徐々にバケツの中に山盛りになっていく。

バケツの縁までいっぱいになると、今度は男たちはスコップの代わりに竹筒を取り出して、バケツに向かって風を吹き込んだ。

おかげで木炭はますます赤く燃え上がり、やがて金属製のバケツすら赤味を帯びてきた。

「鉄が熱を伝えることは知ってるだろ?この鉄線は特に熱伝導がいい材質で作らせてあるのさ。ま、見てな。今からおまえの体に何が起きるかを。」

アマンダはエスメラルダの説明を聞くまでもなく木炭を見たとたん鉄線が熱せられることに気づいていた。

しかしそれがいつどのような形で自分の体に及ぶかは予測もできず、ただじっと身構えるしかなかった。

全身から滴る血に混じって、いやな汗が毛穴という毛穴からどっと噴き出るのを感じた。

周囲から伸びる数本の鉄線を見ると、早くも下の方から赤く変色してきている。

そして体に巻きつく有刺鉄線が高熱を持つまではそう時間はかからなかった。

「あつっ!あぁぁぁぁ・・・・・・」有刺鉄線に沿って急速に全身いたるところに熱が発生しだす。

「いよいよ始まったね。強情を通すつもりなら、熱線に全身を焼かれるがいい。あははははははは・・・・・・」

見る見る有刺鉄線の赤味が増していく。

棘で抉られた傷口の一つ一つにまるで煮えたぎる硫黄を流し込まれているかのごとく耐え難い熱さがアマンダを襲う。

ジュジュゥゥゥゥ・・・・・

高温に達した鉄線に血や汗が触れるたびにうっすらと煙が立ち上がる。

「グッ、ギ、ギャアァァァアアァァァアァァァアアァァァーーーー!!!」

「ほらほら、白状しちまいな!全身焼けただれる前にさ!」

「ウグググ・・・・い、いやだ!いやだーーっ!!言うもんか!!ギャァアアァァアアァァアァァァーーー!!」

エスメラルダの命に従えば少なくともこの熱線責めからは解放されるだろう。そうとわかっていながらアマンダは敢えてそれを断った。

拘束されている木製の頑丈な椅子ごとガタガタと揺すりながら、アマンダはいつ果てるとも知れないこの灼熱地獄に全身を激しく悶えさせ続けた。

           

長い髪を振り乱し、周囲に血と汗と涙を撒き散らしながら絶叫するアマンダの姿には手下の男どもすら眉をひそめたが、エスメラルダにとってはこの上ない面白い見世物以外のなにものでもなかった。

やがて体力気力の限界に達していたアマンダの動きが徐々に緩慢になってきた。

「ふん、これも耐え抜いたか。なかなかやるじゃないか、この小娘。」

白目を剥いて悶絶寸前のアマンダをしばらく見つめていたエスメラルダはポツリと呟くと、手下どもに指示を出した。

男たちはバケツに水を汲んできてアマンダの全身に荒々しくぶっかけた。

ジュジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・

そして工具で有刺鉄線を断ち切ると、意識を失ったアマンダの傷だらけの体を引きずって部屋から出て行った。

その後姿に向かってエスメラルダは言った。

「せっかく手に入れた美味しい獲物。まだまだ楽しませてもらうよ。キャプテン・アマンダ、二日間の休息を与えよう。だがその後おまえを待っているのは今まで以上の生き地獄さ。あははははははは・・・・・」

静まりかえった部屋には皮膚が焦げる異臭だけが残っていた。

 

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